デイヴ(アーロン・ジョンソン)は、ちょっとオタクな普通の高校生だが、スーパーヒーロー
になりたいという願望から、通販で買ったコスチュームに身を包み「キック・アス」として町の
チンピラどもを相手に無謀な戦いを挑む。ところがある日、本物の悪人狩りをしている「ビッグ・ダディ」
(ニコラス・ケイジ)と「ヒット・ガール」(クロエ・グレース・モレッツ)という父と娘と出会う。
彼らは町のマフィアのボスであるダミコ(マーク・ストロング)を敵として狙っていた。
一方、ダミコは麻薬取引を邪魔されたと勘違いしてキック・アスを血眼で探し始める。
スモールバジェットの映画ながら前評判が良かったので観に行きましたが、出だしは少し期待したものの
ブラックコメディ(バイオレンスコメディ)の度合いが私には合いませんでした。この映画を観て諸手を
挙げて「面白い」という感性は私にはありません。
面白いのはドライヤーの音で話しかけても聞こえないところとかの日常的な部分だけでね。
キックアスのコスプレをしていてマフィアに射殺された一般の若者なんて「コメディ」にどう関わって
くるんだという感じです。
まあそういう乾いた描写は所詮コミックだから目くじらたてる方が野暮、という人もいるんでしょうけどね。
なにしろこの映画を通じて一番多く人を殺しているのが10歳ちょっとの女の子で、しかも事件後は平然と
学校に通っているという、その活躍を喝采しながら観ている観客という構図そのものがなんかもう
異常な感じがして、こういう映画を喜ぶアメリカ人の感覚について行けないです。
たとえ正義の味方でも人を傷つけることは果たして良いのか?ということを悩んでしまってるのが
クリストファー・ノーランのバットマンなら、女の子でも高校生でも、相手が悪党だったら抹殺成敗
しちまって万事オーケーというのがこの映画なんでしょうかね。
高校生の相原リョウ(成海璃子)は、クラスの中で唯一携帯電話を持っていない。それはリョウが
内気で友達がおらず、携帯電話を持っていても話す相手がいないから。ところが、公園でおもちゃの
携帯電話を拾ってから頭の中に野崎シンヤ(小出恵介)という青年から電話がかかってくるようになる。
最初は自分の想像の産物だと思っていたが、シンヤは実際に長野に祖母サチ(八千草薫)と二人暮らしを
していてリサイクルショップで働いているということが分かり、またある時リョウがかけた
「頭のケイタイ」が原田さん(片瀬那奈)という女性にも繋がる。リョウは幼い頃に友達の陰口が原因で
好きだったピアノを止めて暗い性格になっていたが、シンヤから励まされて少しずつ明るくなっていく。
原作は十代に人気のある作品とのことですが、私は全く知りません。この映画を鑑賞した唯一の関心事は
成海璃子だったからです。しかし、映画は「お涙頂戴」的な演出が過剰になることもなく、また
ラブストーリーとしても「二人が幸せになる」ために無茶な展開になるということもなくて、芯がしっかり
してぶれがない作品になっていたと思います。なにより(思い切り私情を挟んだ感想として)成海璃子さんの
演技が素晴らしいです(笑)
映画は妙にソフトフォーカスがかかったような画像で(これはフィルムか撮影機材の影響かもしれません)、
冒頭ではおもちゃの携帯電話、はては電話が無くても頭の中に着信するというファンタジー映画の様相を
呈していて最初はかなり警戒しながら観ていました。また、ラブストーリーと言うことで二人を中心にして
物語が進み、どんな困難も奇跡が起きて二人が結ばれるような結末になるのではという危惧もありました。
しかし、ファンタジー的なファクターは時間と空間(ともう一つの要素)を越えて二人が会話をする
ための手段であり、ストーリーも短絡的な幸せに溺れることなく現実に踏みとどまった作品となっており、
作り手のしっかりした見極めを感じさせるものになっていました。
「神童」では負けん気の強い少女を演じていた成海璃子は、一転して家庭の中でもあまり喋らないような
内向的な役を演じています。その彼女がシンヤの励ましによって少しずつ元気になっていく様子、ずっと
止めていたピアノを再び弾いたときに玄関でそっと聞き入る母親(古手川祐子)とその妹のシーンなど、
きめ細やかな演出がされていたと思います。
そしてリョウが海岸でテープレコーダーに向かって「シンヤさ〜ん、あなたに会いたいで〜す」と声を
吹き込むところでは、それまで内に籠もっていた少女が立ち直る現場を目の当たりにしたような感覚に
とらわれて思わず涙がこぼれました。その他にも彼女の素敵な表情を見ることができます。役者は顔です。
それは見てくれの美醜ということではなく、綺麗な顔だけでなく怒り顔や泣き顔などの崩れた表情も含めて
如何に表情を作れるか、ということだと思います。その点において彼女は優れた才能を持っていると思います。
クライマックスに関してはここでは書きませんが、当初は奇異に感じた時間差と、そしてそれまでの描写の
積み重ねが見事に活かされています。ここでもリョウの腕に擦り傷があるなど演出が丁寧な印象を受けました。
そしてシンヤの祖母であるサチ役の八千草薫さんが映画の重心を決めているような感じがありますね。
クライマックス後のサチとリョウの会話でこの映画の深みが増しています。
決して派手な味付けはされていませんが、山奥の水源地でわき出る水をすくって飲んだときのような
満足感を味わうことができました。
ボブ・リー・スワガー(マーク・ウォールバーグ)は海兵隊の優秀な狙撃兵だったが、任務中に
相棒のドニーが死亡したこともあって海兵隊を辞め山奥で隠遁生活を送っていた。そこにジョンソン大佐
(ダニー・グローバー)が現れ、遊説中の大統領が狙撃される可能性があるのでプロの目で犯人の
居場所を突き止めて欲しいと依頼する。スワガーは乗り気ではなかったが承諾し警戒に当たっていたが、
突然背後から銃撃され罠にはめられて自分が狙撃犯に仕立て上げられたことを悟る。スワガーは
居合わせたFBI捜査官メンフィス(マイケル・ペーニャ)の車を奪ってかろうじて脱出し、ドニーの
婚約者だったサラ(ケイト・マーラ)に助けを求める。
現役を引退した兵士(パイロットでも特殊部隊でも)が、もう一度依頼されて危険な任務をこなす
(例えばファイアーフォックス)。ところが、その任務には裏がある(例えばランボー2)。すると
主人公は持てる能力を最大限に使って反撃し、黒幕を追いつめる(例えばコマンドー)。これは
その類の映画だから主人公が勝ち悪が滅びるという構図は最初から明らかなので、後は主人公が
どうやって危機を回避して悪役と対決してうち破るかという過程が面白く描かれていれば良いわけです。
この映画は原作がスティーヴン・ハンターの有名な小説で、「極大射程」というタイトルの通り
通常では不可能な遠距離から狙撃するシューターが主人公ということでどれだけサスペンスを
盛り上げてハラハラドキドキさせてくれるのかが楽しみになります。こういうストーリーでは
主人公のサバイバル能力が高いことが度重なるピンチを回避する鍵となるのですが、余りにも
スーパーマン的に乗り切ってもつまらないし、逆に敵方が失敗ばかりしていると悪役が間抜けに
見えてしまうと言う、実は脚本家や監督の力量が問われるジャンルなんですね。
ところが、どうも演出のキレが悪くて手に汗握るような展開とはほど遠くいささか残念な出来でした。
監督のアントワーン・フークワは「キング・アーサー」の監督で、こちらも今ひとつの印象があるので
この監督とは相性が悪いのかも知れません。この監督はアクション映画には向いていないんじゃないか
という気もします。
映画の冒頭こそ、スワガーが瀕死の重傷を負いながら追っ手から逃れて傷の応急処置をする緊迫感が
ありましたが、敵役のジョンソン大佐とミーチャム上院議員(ネッド・ビーティ)がどっしりと
構えすぎていて、投入される部下たちが次々にやられていく展開に次第にテンションが下がって
しまいました。特殊部隊が突入して返り討ちに合いますが、彼らも訓練を積んだプロならばあちこちに
仕掛けられた手製爆弾や身を潜めているメンフィスには気づきそうなものです。
交渉の場をあのような山岳地帯にしたのは原作通りなのでしょうか。「身を潜める場所を避ける」
つもりならばそれこそボンネヴィル・ソルト・フラッツに呼び出して特殊部隊を円形に配置すれば
スワガーも手出しできないと思うのですがねぇ。あんな雪山で銃撃したら雪崩が起きそうな気が
するんですが。そしてラストでスワガーが黒幕を始末することを司法?が黙認するような描写は
なんだか後味まで悪くなりました。サラが男を二人も射殺するのも見ていて気持ちの良い物じゃない。
少なくとも二人目は腕ごと銃を吹っ飛ばされているんだから正当防衛にはならないでしょう。
あれが普通だと感じているのならばアメリカ人の感覚は変ですよ。
サラ役のケイト・マーラ自身は可愛かったですよ。何故か鼻の頭が日焼けしたみたいになっていて
チャーミングでした(笑)。もっとましな映画に出てほしいですね。
スタントマンのスター、ジョニー・ブレイズ(ニコラス・ケイジ)は、高校生の時に病気の父親を
救うためにメフィスト(ピーター・フォンダ)と契約していた。そしてメフィストが姿を現し、
メフィストの息子で反逆者のブラックハート(ウェス・ベントリー)を倒すように命じ、ジョニーは
メフィストの呪いでゴーストライダーへと変身する。ブラックハートは三人の仲間と共に、ジョニーの
高校時代の恋人であるロクサーヌ(エヴァ・メンデス)を捕らえ、ジョニーに服従を迫った。
マーベル・コミックの映画化だそうですが、こういうヒーローがいたとは知りませんでした。
身分としては一応悪魔の手先なので日本で言えばデビルマンみたいなダークヒーローなんでしょうが、
映画全体を覆うほのぼのとしたムードはいわゆる楽しいB級映画のテイストが溢れています。
話はまだるっこいんですが、ゴーストライダーは何か憎めないですね。
頭と手は骸骨なのに何故か革ジャンを着たボディはマッチョで、指笛を吹くと愛馬が駆け寄るように
無人のオートバイがやってくる。しかもそのオートバイはゴシック風銀メッキドクロのデザインで、
ビルの壁も駆け上り、道路を走れば回りの車が次々とぶっ壊れる。基本的にゴーストライダーは
悪人を退治する本能で動いており、そのためには一般人の迷惑など全く意に介さないところが
なんとも面白い。
ニコラス・ケイジが演じるジョニー・ブレイズは普段はカーペンターズを聴きながら酒の代わりに
ジェリー・ビーンズを食べ、猿のテレビ番組に異様な?関心を示すなど、ちょっと変わったキャラクター
付けがなされていますがそれはドラマとは何も絡んできませんでしたね。それから、元恋人の
ロクサーヌ役のエヴァ・メンデスがラテン系褐色の美人で素敵で、ワインをがぶがぶ飲んで「ぷふ〜」
なんて言ってるところが可愛いかったですね。
そもそもブラックハートが引き連れてきた三人の悪魔が弱いこと弱いこと。ゴーストライダーを
窮地に追い込むまでもなくあっさりやられ、肝心のブラックハートもあっけなく退治されて、
安心して見ていられます。メフィストはゴーストライダーを使って最終的には人間界を支配しようと
してたらしいのですが、ジョニー・ブレイズに裏切られ、過去のゴーストライダーにも裏切られ、
息子は反逆者と全く良いところがなくて可哀相でしたね(笑)
ゴーストライダーの映画にメフィスト役で「イージーライダー」のピーター・フォンダを引っぱり
出す洒落っけと、ちゃんとそれに応えて出演している本人の心意気が嬉しいじゃありませんか。
過去のゴーストライダーが鉄の馬に乗って走ってるところではジーンとしちゃったな。
カンドゥ(ソン・ガンホ)は漢江のほとりで父親のパク・ヒボン(ヒョン・ヒボン)と売店を営んでいる。
ぐうたらなカンドゥは居眠りばかりしていて妻にも逃げられたが、一人娘のヒョンソ(コ・アソン)を
とても可愛がっている。ある日、漢江から不気味な怪物グエムルが出現してヒョンソをさらっていって
しまったが、携帯電話がかかってきてまだ生きている事が分かる。警察や軍隊は当事者を隔離しようと
してあてにならない。カンドゥは父親と、学生運動上がりで定職に就いていない弟のナミル(パク・ヘイル)と、
アーチェリーの選手だがここ一番のプレッシャーに弱い妹のナムジュ(ペ・ドゥナ)と共にグエムルを
倒してヒョンソを救出することを決意する。
−−−−− 結末に関する記述があります
韓国映画では珍しく?怪物映画なのですが、怪物の体長が10m以下と比較的小柄で、軍隊や特殊部隊が
ほとんど登場しないなど、そのフォーマットは日本やアメリカのものとはずいぶん違います。これは
韓国というよりポン・ジュノ監督の特色が強く出ているのだと思います。そしてこの映画の最大の
特徴であり魅力なのは怪物と対決するのが娘をさらわれた平凡な一家であると言うことです。これを
面白いと感じるか馴染みがない描き方と思うかは観客の受け取り方次第だと思います。
私自身はやはりちょっと間延びするように感じるシーンもありましたが、単純にこれまでとは
異なるスタイルの怪物映画を楽しむことが出来ました。頼りになるのは警察や特殊部隊などではなく
最後は家族の絆ということを上手く描いていたと思いまし、所謂公的機関はほとんど役立たずに
描かれているのも面白いですね。冒頭ではグエムル誕生の原因として在韓米軍が廃棄した薬物が示唆
されていますが、この薬物の空き瓶がずらずらと続くシーンが凄いです。
グエムルが最初に姿を現すシーンとその直後のパニック的な展開、ヒョンソが死んだと信じ込み、
犠牲者の合同葬儀で異様な悲しみを見せるパク一家、とりあえずグエムルに遭遇した人たちを隔離
したものの行き当たりばったりの対応をする当局など、従来の怪獣映画にはあまりなかったシーンは
思わずにやりとさせられる一方で、唐突に出てきた感のある男の子やホームレスの男などにはちょっと
ひっかかるものを感じました。
主役のカンドゥを演じるのは私の大好きなおっさん俳優ソン・ガンホで、この映画でもダメな親父、
娘に対する愛情を示す場面、隔離された病室からの決死の脱出、グエムルとの対決などそれぞれの
シーンにぴったりはまる演技を見せています。そしてその脇を固める家族もグエムルに吹っ飛ばされて
失神してしまうペ・ドゥナとか酒癖が悪くてすぐ口論になるパク・ヘイルなど「およそヒーローとは
無縁の普通の人々」が見事に決まっていました。
ヒョンソ役のコ・アソンは普通の女子中学生と言った、取り立てて綺麗な顔立ちではないのですが、
囚われの身となり映画のほとんどの時間を泥だらけの顔で押し通しながら何とか脱出を試みようと
していく間にどんどん魅力的で可愛くなってくるのが素晴らしい。「無事に帰れたらビールが飲みたい」
という台詞も素敵でしたが、やっぱりラストでは助からなかったのでしょうか。
ラストシーンではカンドゥと男の子が二人で暮らしている描写になっていますが、私の勝手な妄想の
中では、ヒョンソは今回の経験を生かして若くして女流怪物ハンターとなり、一匹だけではなかった
グエムル退治に日々奮闘しているのです(だから家は留守なんです)。怪物を一匹仕留める度に未成年
ながらビールをぐいっとやる。そういう続編が観たいですよ、ポン・ジュノ監督(笑)
阿蘇山の原野で自ら手首を切り、倒れていた歩美(木村文乃)は「じい」(犬塚弘)に助けられて
「阿蘇ふれあい牧場」で目を覚ます。牧場主の安藤(勝野洋)やその娘桐江(井上晴美)、牧場にいる
もと高校教師の楠田(榎木孝明)や失声症の少年高柳(小林幸一朗)らは優しく接するが、歩美は
なかなか心を開こうとしない。ある日、競走馬を引退した「メイワジョニー」(ゼンノカシュー)が
セラピーホースとして牧場へやってくる。気むずかしい馬だったが歩美にはすぐに懐き、歩美も
少しずつうち解けていく。
「ダドゥ」とは駄動と書き、馬の腸が動く(腸動)ときの音だそうである。これが聞こえない
馬は命に関わる危険があるという、つまりは生命が活動している証である。
この映画は私の生まれ故郷である阿蘇が舞台で(と言っても原野で生まれたわけではないけど)、
映画の中では荒尾競馬や、個人的に町並みが好きな山鹿市の八千代座なども登場するので非常に身近に
感じた作品です。地理的な位置関係や時間の経過が実際と違うのは映画の約束事なのでそれは
気になりませんが、いくつかのシーンではビデオ撮影された素材から取り出した解像度の低い画が
使われていたのには驚きました。こういう場面がきちんとフィルム撮影されていると映画全体の輝きが
格段に違ってくるはずなんですが。
ストーリーとしては生きる意味を見失った女子高生が牧場の人たちや馬と触れあうことによって
再び生きる希望を見いだすというスタンダードなものです。ですから後はそこに描かれる人物や
エピソードの善し悪しが映画の出来に直結するのですが、これも比較的スタンダードな描写だったかな
というのが正直な感想です。
主役の木村文乃は、映画の最初の方では感情を失ったちょっと怖いような顔をしていますが、
ラスト近くではもっと生き生きとした表情を見せて欲しかった。それと、榎木孝明や小林幸一朗、
母親役の萬田久子のエピソードを盛り込むには上映時間がちょっと短く、見ている側に感情的な
余韻を与える間もなく物語がパタパタと展開してしまうのがもったいないです。
ただ、馬のシーンは単純に感動して涙ぐんでしまいますね。やっぱり動物が出てくるとかなわないなぁ。
アニマルセラピーの一つとしてホースセラピー、ってのがあると初めて知りました。でも阿蘇の原野と
言ったら馬ではなく牛、と地元民は思うんですよ(笑)。牛ではドラマになりにくいのは分かりますけどね。
ロサンゼルスの黒人刑事グラハム(ドン・チードル)と同僚の女性刑事リア(ジェニファー・エラスポジト)は
偶然、ある黒人青年の殺害現場に出くわす。その事件から、前日の様々な人たちの行動の関わり合いが浮かび上がる。
ペルシャ人のドリ(バハー・スーメク)の父親で雑貨店主のファハド(ショーン・トープ)は店の鍵を修理しに来た
ヒスパニック系のダニエル(マイケル・ペニャ)と口論となる。地方検事リック(ブレンダン・フレイザー)と
妻ジーン(サンドラ・ブロック)は二人組の黒人青年アンソニー(リュダクリス)とピーター(ラレンツ・テイト)に
自家用車を強奪される。黒人のTVディレクター、キャメロン(テレンス・ハワード)と
クリスティン(サンディ・ニュートン)夫妻は人種差別主義者の白人警官ライアン(マット・ディロン)から
行き過ぎのボディチェックを受ける。様々な人種の軋轢と個人の持つ苦悩が絡み合って一日が過ぎて行く。
物語のポイントに関わる記述をしていますのでご注意。
最初に書いてしまいますが、久々に脚本の力で観客を引き込んでいく映画を観ました。私が元々この映画に
興味を持ったのは監督のポール・ハギスからです。一般には「ミリオン・ダラー・ベイビー」の脚本家として
知られているようですが、私はTVドラマ「騎馬警官(原題Due South)」の演出でこの人の名前を知りました。
それから出演の他に製作にも名を連ねている黒人俳優のドン・チードル。この人はTVドラマ「ER」にしばらく
出演していましたが、チャイナ服を着たカンフー使いの黒人(ラッシュ・アワー2)を演じるかと思えば
「ホテル・ルワンダ」の様な作品にも出演する、なかなか面白い役者さんです。
ドン・チードルと恋人の刑事が自動車事故に巻き込まれ、そのすぐ近くが殺人事件の捜査現場だったことが
発端となり、一日前から物語が始まってまたその現場に戻る構造になっています。そして、直接関わり合いが
ある人たち、巡り巡ってつながりがある人たちが次々に登場して、それぞれの立場の物語が進行していきます。
そしてそのどの場面でも根底にあるのはアメリカの抱える問題、異なる人種の間に起こる問題です。
これは日本人故の無知もあって私にはなかなか分かりにくく、実は映画が始まってしばらくはこんな厳しい
ストーリーが2時間続くのか、と思ってちょっと辛くなりかけました。通りを歩いている黒人と白人がお互いを
「警戒」という目で見ているようなこと、またテロ事件以降の中近東系の人たちへの偏見、黒人自身がその
「黒人的」な事から脱却しようとしている部分があること、白人の中に根強く残る人種差別などなど、
物語として誇張されている部分もあるのでしょうがもうそれだけで勘弁して欲しいと思えるような憂鬱な
エピソードが次々に描かれていきます。
しかし、鍵の修理工ダニエルとその娘のエピソードが、物語の中で一番後味が悪くなるかと思いきや、
全ての救いになっています。ファハドが「天使に会ったんだ」と呟くその言葉に涙がこぼれてしまいました。
実際の人間は人種の違い以上に、人それぞれに何らかの問題を抱えていて、お互いに誤解と行き違いと和解、
そして理解をしながら、それでも世界は動いていく。悲劇もあれば救いもある。この映画はそれを淡々と
語っている気がします。
脚本が巧みなのでそれほど混乱はしないのですが、ブレンダン・フレイザーとサンドラ・ブロックの夫妻は
やや物足りない感じでした。一方でマット・ディロンが役柄以上に「アメリカの保守層」という顔つきだったのは
素晴らしいと思います。彼がサンディ・ニュートンを救い出すシーンも良かったですね。ただ、物語の最後の
アンソニーのエピソードはちょっとTVドラマ的にまとまってしまったかなぁという気もします。少しエコーの
かかったマーク・アイシャムの音楽が心の隙間に響くような感覚で秀逸でした。
ジョン・コンスタンティン(キアヌ・リーブス)は幼い頃から悪魔が見える能力を持ち、それを恐れて自殺を
図ったために死後は地獄に墜ちる運命となった。それを覆して天国へ行くために、彼は人間界に潜む悪魔を
見つけては地獄へ送り返すエクソシストとなっていた。ロサンジェルスの女刑事アンジェラ
(レイチェル・ワイズ)は精神病院から飛び降り自殺した妹イザベラの死因に霊的なものを感じて
コンスタンティンに接触する。コンスタンティンは人間界にすむ悪魔のバルサザール(キャビン・ロズテール)が、
さらに大きな悪魔の降臨のために動いていることを察知する。
悪魔とか魔王とか、悪い奴の大王が復活しようとしてそれを阻止する物語、というのは映画やゲームでは
数多く取り上げられています。映画ではインディ・ジョーンズ、ハムナプトラ、ヘルボーイ、阿修羅城の瞳、
帝都物語などなど。ところが、宗教的な要素が含まれるの場合は逆にその宗教と無縁な者にとっては描かれる
世界が現実味の無い物語になってしまいます。
この映画はキアヌ・リーブスが主演し、現実世界と異世界を舞台にしているので観る側としては
マトリックス的なものを期待してしまうのですが、二時間という上映時間の中で描かれる世界が薄っぺらい
ことこの上なし。大変なのはキアヌ・リーブスとレイチェル・ワイズとその周辺、後は神様と悪魔だけで
一般の人々はそんなことは全く意に介さずに暮らしていけるような非常に矮小な世界の物語に終始しています。
何しろ天国と地獄のせめぎ合いが病院の治療用?プールで片づいてしまうくらいですからね。
黒こげになったガブリエルがむっくり起きあがるシーンに至っては、この映画はコメディだったのかと
錯覚しまったほどです。アメリカの映画ではよく神や悪魔が姿を現しますが、映画を製作する側がそれを
どう見せて良いのか分からない、描けないという現実にいい加減に気づいて欲しいです。神々しい格好や
禍々しい格好ではダメだと思うのか、アメリカ映画に出てくる神様悪魔様はとりあえず普通の格好を
していることが多いような気がします。
この映画でもサタンが白いスーツを着て出てきます。どこかで観たことがあると思っていたら演じるのは
ピーター・ストーメア。実に怪しげな雰囲気でここだけは満足。この人は「ファーゴ」の不気味な殺人犯役が
思い出されます。それ以外はせっかくお気に入りのレイチェル・ワイズが出ているのにあんまりぱっと
しません。キアヌ・リーブスも大して活躍するでもなく、この映画はミュージックビデオ出身の監督に
しては全体的に外連味もハッタリも無くてびっくりしました。
映画の冒頭で出てくる「槍」はヘルボーイでもちらっと出てきましたが、これが何らかの謎を呼ぶのかと
思ったらメキシコ人の彼が持ってきただけでねぇ。最初に発見されたときはナチスドイツの旗に包まれていた
ような気がするのですが、あそこに埋められた経緯を映画にする方が面白かったんじゃないかと思います。
あるいはサタンの息子が人間界に降臨したあとの終末世界を描いて見せて欲しいです。神と悪魔を描くことに
手詰まりの映画を、アメリカ映画界はまだ作り続けるのでしょうか。
文化大革命前の中国で、サム(チャン・クォックワン)をリーダーとするギャング団「斧頭会」は冷酷非道なやり方で
街を支配していたが、貧困街である豚小屋砦には目もくれなかった。そんな豚小屋砦に二人組のチンピラ、シン(チャウ・シンチー)と
相棒(ラム・ジーチョン)がやってきて、自分たちは斧頭会だと偽り住民から金をだまし取ろうとするが失敗、
本物の斧頭会と住民との乱闘騒ぎとなる。
2005年最初の映画は新春にふさわしい景気の良い映画となりました。「小林サッカー」でサッカーと小林拳を融合させた
チャウ・シンチーがより本格的にカンフーを取り入れた映画です。劇中でサッカーボールをバン!と踏みつぶし「サッカーはもうやめだ」
というような台詞があるところは前作で自信をつけたからこそできる楽屋落ちでしょうね。
主な出演者は「小林サッカー」を受け継いでいて、敵役のチャン・クォックワン、相棒のラム・ジーチョン、そして前作で
突然歌い出す謎の人物を演じた方などが顔を連ねています。物語の舞台は「豚小屋砦」と呼ばれる貧民アパートなのですが、
まずここに住んでいる人たちがいかにもアジア、というバイタリティに溢れています。そしてそのような住人の中に、かつて
カンフーで名を馳せた達人たちが身をやつしているという設定は、ありがちながらワクワクしてしまいます。
いままで普通のおじさん、おばさんだった人たちが突然ポーズを決めてカンフー技を繰り出し悪人たちをばったばったとなぎ倒す
爽快感は素晴らしい。この映画では「いかにもカンフー使い」という人物はあまり出てきませんが、ジャッキー・チェンの「酔拳」など
にもこういう設定はありましたね。そういう役を往年のアクションスターが演じているところが香港の人たちにはまた面白いのでしょう。
物語の中心にあるのはチャウ・シンチー扮するチンピラのシンが子供の頃から信じていた「如来神掌」に覚醒する過程なのですが、
「如来神掌」を信じるきっかけとなったエピソード、一度諦めた「如来神掌」を再び思い返す場面など、脚本としても単なる
一本調子ではないところが従来の香港映画とはテイスト変わってきていると思います。
ただ、惜しむらくは幾つかのアクションがコンピュータグラフィックスによって置き換えられていることで、香港映画の魅力
である「生身の人間がやっている凄さ」が若干後退していることです。例えば豚小屋砦の旦那が天幕を破って落ちるシーン、
役者本人がやらないまでも昔の香港映画では当然スタントだった筈なんですが・・・香港映画も今後はこういう流れになるんでしょうか。
映画のクライマックスはチャウ・シンチーと「火運邪神」(ブルース・リャン)の対決になるのですが、決着したときに
チャウ・シンチーが言う「学びたければ教える」という台詞に痺れました。観ている私まで「参りました」という見事な展開で
感動してしまいましたよ。
「小林サッカー」もそうだったのですが、物語はきちんと閉じている構成です。ラストの街並みのシーンで幼い頃の姿になる
ことは予想できていたのですが、周囲を歩く人々にもうひとつ仕掛けがしてありまして、さらに秘伝の書を売りつける怪しげな
老人まで出てくるという物語のまとめ方は笑いがこみ上げてくる素晴らしさでした。
ローマ帝国の騎士としてブリテン島の砦を守るアーサー王(クライヴ・オーウェン)とランスロット(ヨアン・グリフィズ)ら
円卓の騎士の願いはローマ帝国から解放されて生まれ故郷であるサルマートへ帰ることだった。ローマ司教ゲルマヌスは
アーサー王たちの最後の仕事として、魔術師マーリン率いるウォードと、セルディックとシンリック親子率いるサクソン人軍団に
包囲されつつあるローマ人貴族マリウス一家の救出を命じる。それは過酷で命を落とす危険のある任務だった。マリウスの領地に
たどり着いたアーサー王は、そこで囚われの身になっていたウォードの美しい女性グウィネヴィア(キーラ・ナイトレイ)を救出する。
始めに白状しておきますが、私はアーサー王伝説については殆ど何も知りません。つい最近までアーサー王は歴史上に実在した
人物だと思っていたくらいです。知っていたのは神剣エクスカリバー、上下関係をなくすため円卓を用いたこと、円卓の騎士の
一人にランスロットという剣の達人がいること、ランスロットはアーサー王の奥方と今で言う不倫をしたこと、というくらい。
そんな私ですからアーサー王伝説に対する思い入れなどもないので、新しい解釈で作られたこの映画を観ても
「物語とはここが違う、こんな筈じゃない」というアーサー王ファンが持つであろう不満はありませんでした。この映画は伝説に
ありがちなファンタジー的な要素を排除してリアル指向で作られていますが、それが良い方向に向かったかというと必ずしもそうは思えず、
なんだかちぐはぐな映画を観てしまったなと言うすっきりしないモヤモヤした感じが残ってしまいました。
そうなった原因の一つは編集と構成のまずさにあるような気がします。具体的に指摘することは難しいのですが、例えば
幼いアーサーがエクスカリバーを手にする件が思い出話の中で一瞬だけしか語られませんが、全く神秘性が与えられていないのに
果たしてエクスカリバーを引き抜くこのシーンは必要だったのでしょうか。また、ランスロットが命を失ったときにグウィネヴィアが
息せき切って駆けつけます。これは前述の不倫を思わせるのですが、これ以外にそういうことを思わせる要素は皆無です。ランスロットが
少し気がある素振りを見せますが、どちらかというとアーサーとの友情のために感情を抑える描写があるので唐突な感じがあります。
また、サクソン人との攻防もアーサーたちに策略があるのかないのか、サクソン人は力で圧倒しようとして先遣隊が全滅した
城壁内部に展開したのか、そういうところが今ひとつ分かるように描かれていないまま一対一の対決に焦点が移ってしまいます。
その決闘の様子は、流行の何が映っているのか分からないような早いカットでハイコントラストの描写で、私はもういい加減辟易
しています。そして全てが終わった後、グウィネヴィアと婚礼を上げるとそれで万事がO.K.とばかりに群衆(と言うほどの人数はいない)
が歓声を上げておしまいというのも非常にわびしいです。
なんだか憂鬱になることばかり書いていますが、演じる俳優たちに関しては全く不満はありません。クライヴ・オーウェンは
ちょっとモサッとした感じですが風格があります。また、ランスロットは格好良くボースやダゴネットも非常に魅力的です。
グウィネヴィアを演じるキーラ・ナイトレイは若干18歳ながら堂々とした演技、わずかに下あごが出ている綺麗な顔立ちは
英国人そのもの。また、胸が小さくてクライマックスのビキニ姿での格闘に違和感がないのが良いです。グラマーなだけが
女優に求められるものではないのです。
惜しむらくはその人物たちや物語を深く描き切れていない監督の力量にあります。とにかくこぼれ落ちた部分があまりにも
多すぎて散漫でまとまりが無い印象の映画でした。
毒ヘビ暗殺団の女エージェントだったブライド(ユマ・サーマン)は、ボスであるビル以下の暗殺団に結婚式を襲われ、
式に出席していた客やお腹にいた子供を殺され、自分自身も4年間の昏睡状態に陥る。昏睡からさめたブライドは復讐を誓い、
格闘の末にヴァニータ・グリーン(ヴィヴィカ・A・フォックス)の命を奪い、その後沖縄へと飛ぶ。そこで伝説の刀匠、
服部半蔵(千葉真一)から刀を譲り受け、暗殺団の一人であるオーレン・イシイ(ルーシー・リュー)がいる東京へと向かう。
オーレンはヤクザのボスとして君臨しており、身辺をクレイジー88という私設軍隊と女子高生ゴーゴー夕張(栗山千明)に警護されていた。
タランティーノ監督の映画は今までに観たことがないのですが、他の映画はここまで荒唐無稽ではないと思われます。
もともと3時間近い、あるいはそれを越える映画なので前後編になったとかで、まあ映画の仕上がりとしてはバランスが
悪いし前後関係も整理されてないような印象も受けます。
しかし、この映画はタランティーノが今まで観てきた映画やTV番組を、好きなところだけ自分のものとして再構成する
という究極のプライベートムービーなのだなと思う。それが全世界の映画館で公開できるということがこの監督のパワーなんでしょう。
そのパワーの前には細かいことにも大きな事にも関知しないと言う潔さは天晴れ。そう何度も使える手ではないと思いますが、
ここまで開き直れるのはある種の才能でしょうね。
オープニングにいきなりショウ・ブラザースのロゴが出てきて「なんだこりゃ」と思っていると突然の銃声。で、ますます
映画が掴みきれないような混乱に陥ろうとした矢先、蚊が血を吸う画面に「ちゅー」という音が被せてある。この瞬間、
この映画はあれこれ理屈をつけようとして観る映画ではないなと感じ、さらにブライドが怪我したはずの自分の頭をたたいて
確認するという重たいシーンにも「カンカン」というふざけた(笑)金属音を入れていることで確信しました。
その後はたとえ血飛沫が吹き出し手足がぽんぽん飛んでも、もう一つ一つの場面を面白いくらいスカスカと受け入れて
しまいました。この残酷描写故にすべての人に受け入れられる映画ではないにせよ、日本映画と時代劇、マカロニウエスタンの
見せ場だけを撮りたいがために作られた前代未聞の映画だと思います。
國村準さん、ブラックレインと同様あっさりと死んでしまいました。
栗山千明さんはNHK教育テレビのドラマ「六番目の小夜子」でもちょっとミステリアスな役を演じていましたが、この映画では
どうやら「バトルロワイヤル」の延長上にあるらしいかなりぶっ飛んだ女子高生を演じています。制服姿で鎖鉄球をぶんぶん
振り回すゴーゴーは、日本人男性の心には訴えかけるものがありそうですが海外ではどうなんでしょうね。ただ、ブライドの要求に
対していかにも日本ドラマにありそうな高笑いをする場面では日本の演技環境の貧しさみたいなものを感じてしまいました。
この点と、何故ゴーゴーは自分の武器でとどめをさされることにしなかったのだろうかという部分にはちょっと突っ込みたい。
もう一つ、ルーシー・リューが演じるオーレン・イシイ、リュー自身には何も問題はないのですが、この日系人の役を演じる
ことができる国際的な日本人女優がいないということは日本映画にとって大きな問題ではないのかと思う。栗山千明がこの映画を
きっかけに国際舞台で通用するように育っていくと面白いんですけどね。
眼帯をした女殺し屋、ダリル・ハンナは久しぶりに観ましたが、ブレードランナーやスプラッシュの頃に比べるとごっつく
なったという感じです。それからソニー千葉、アクションや日本語の指導もしたみたいですが、真面目だか不真面目だか
分からないような役をきっちり演じているのは流石で、私は夢中で観ていたキィハンターを思い出します。そう、この映画には
あのキィハンターなどに描かれていた無国籍な面白さがもっと色濃く流れています。
ワイヤーアクションはマトリックスやグリーンデスティニーのユアン・ウーピンなのですが、基本的に日本刀は連続する
アクションには向いていないと思いますので日本刀の扱いはやはり勝手が違ったみたいですね。腰が据わらないユマ・サーマンの
殺陣があんまり上手じゃない気もしますしね。ここはタランティーノ監督には桃太郎侍で勉強して欲しかったところですね。
さてユマ・サーマン、まったく化粧気のない顔を堂々とアップにして年相応の肌をさらしたりしていますが、やっぱり綺麗な
顔立ちですねえ。怪しげな日本語は喋るしブルース・リーにそっくりな黄色のジャージは着てるし、アクションも頑張ってます。
オーレンの部下のアイマスクと言い、オートバイで追跡するシーンで「グリーンホーネット」のトランペットが流れたときは
こうもストレートにブルース・リーにリスペクトしているということが嬉しかったですね。
クライマックスのシーンで流れる梶芽衣子の唄と「影の軍団」のテーマ曲、釣り糸が見える模型のジャンボジェット機の操演、
機内では刀ホルダーに刀をセットしている乗客、エンドタイトルで流れる「恨み節」。残酷描写を気にしないと開き直れば、
他の映画ではまず味わうことのできない胡散臭さ満載の陶酔感に達することが出来ます。
1962年の香港、同じ日にアパートの隣り合う部屋に引っ越してきた、新聞社に勤めるチャウ(トニー・レオン)と
社長秘書のチャン(マギー・チャン)。お互いに妻、夫の居る身であるが、しばらくしてその二人が不倫関係にあることに気づく。
チャウとチャンも、密かに一目を忍んで一緒に過ごす時間が長くなっていく。あくまでも気持ちの上の関係だが、お互いを
激しく求め会う二人。やがてチャウは小説を書くためにカンボジアへと渡る。
私にとって初めてのウォン・カーウァイ作品。映画館の予告編を見て、劇場に観に行くつもりだったのですが短期間の
単館上映故に見逃していた作品。赤を基調とした茶色っぽい色調がなんとも言えない雰囲気を作り上げているのだが・・・・
まず、こういう映画を観ていて非常に悔しいのは、香港に限らず他国の生活習慣が分からないところ。この映画では、
引っ越してきたトニー・レオンとマギー・チャンの大家さんに対するポジションが、香港の人には当たり前なのだろうが
私には今ひとつ分からなかった。映画の責任ではないので非常にもどかしい。
それから、こちらは監督特有の手法なのかこの映画だけの表現方法か分からないのですが、非常にじれったい描写が
あるところ。例えば、人物が話をしている手前の物体が大きく写り込んだりすだれ越しに撮影されていたり。物陰から
覗いているような、ちょっとうしろめたいような感覚に陥ります。これは主役二人の立場とも思えるのですが。
トニー・レオンの妻、マギー・チャンの夫は、声や後ろ姿だけで画面に出てこない。そのため、この二人の行動は
周囲の会話などから間接的にしか伝わってきません。主役にからむ部分もあるこの二人を大胆にも「名無し」状態に
したこともこの映画のじれったいながら不思議な魅力につながっています。夫婦間の人間関係をバッサリと切り去り、
トニー・レオンとマギー・チャンの関係一点に絞り込んだために、この二人の関係もどろどろした感覚からはずれた
ちょっと白日夢の中のような関係になっています。
主役の二人、トニー・レオンとマギー・チャンは「英雄」でも恋人同士の役をやっています。気持ちを激しく
ぶつけ合う「英雄」に対して秘められた恋愛に苦悩するこの映画は好対照です。マギー・チャンはいつもチャイナ・ドレスを
着ていて大変に美しいのですが、社長秘書をやっていて夫は海外出張をする身でありながら、やはりあのようなアパートに
暮らすのが普通だったのでしょうかね。このあたりの社会情勢が分かるとこの映画をもっと掘り下げてみることができると思います。
トニー・レオンも、決して感情をむき出しにすることのないなよっとした男はぴったりです。彼の吸う煙草の煙が印象的に捉えられています。
先に結果をぽんと示してその後で種明かしのごとくそれに至る部分を描写する手法は、あまり頻繁にくどく用いられると
イライラして腹が立ってくるのですが、この映画ではそのさじ加減が絶妙で、私のテンションが「なんだこれは!」といきり
立つ少し前にプスッとガス抜きをしてくれるので逆に深い味わいになっています。
映画は最後の方で時間経過がさっさと進んでしまうのがもったいない気がします。トニー・レオンが口紅のついた
煙草を見つける件は素晴らしいのですが、このシーンをうまく1962年にまとめるか最後のカンボジアのシーンにうまくつなげると
更に余韻が深まった気がします。
人間は、試験管の中で精子と卵子を掛け合わせて遺伝的に障害や疾病、性格までもコントロールされた上で生まれてくる時代。
人物は髪の毛一本で遺伝子的に評価され、遺伝情報により特定される世界。ビンセント(イーサン・ホーク)は母体から生まれたため、
近視で心臓が弱く30歳までの命と宣告され、育つに連れて試験管から生まれた弟アントンに体格的にも体力的にも負けるため、
青年となったビンセントは家族の前から姿を消す。数年後、ビンセントは車椅子生活を余儀なくされた
ジェローム・ユージーン(ジュード・ロウ)の遺伝情報によって彼になりすまし、遺伝的に優れた人間しか入れない「ガタカ
」の社員となりタイタンへ行くロケットに乗り込もうとする。
この映画を「スタイリッシュな映像」と評したり紹介したりしているのを見かけましたが、実はこのスタイリッシュな
映像を私は苦手としています。よほど巧みにやらないと、そこに人の息吹が感じられない作り物に見えてしまう場合が
多いからです。すごく魅力的なこの映画にいまひとつ打ち込めないのは、皮肉にもこの映画の特徴であるスタイリッシュな
映像のせいで私には世界に奥行きが感じられないから。
ガタカという組織がロケット打ち上げを担っている理由は?その正体は?それを全て説明せよとは言いません。
しかし、それを感じさせて欲しい。それなのに、画面に描かれた以外の部分を製作者が構築しきってない感じがするのです。
この映画では、例えばジェロームが働いているオフィスはきれいに片づいていてショールームのようです。清掃人が
毎日磨き上げるそういう世界なのかもしれません。が、スーツに身を固めてひたすらキーボードを打っている数十人の中に
宇宙飛行士の候補がいるという状況やロケットにスーツを着て乗り込む宇宙飛行士が、仮に製作者が意図した世界であっても
私には実感として伝わってこないのです。
ジェロームとユージーンが住んでいる屋敷、オフィスのホールや屋根、ロケットを見上げるアイリーン(ウマ・サーマン)と
ジェロームが出会う屋外。そういう場所は現実にある建物を利用して撮影されているのでセットではないのですが、
血の通っていない活きた心地がしない映像なのです。それはこの世界の比喩、メタファーなのかもしれませんが、そういう
世界でも現実に人が生きている感覚が欲しいのです。それと、あちこちで用いられているフィルターを使った映像はどうしても
画像が平面的になってしまいますので私の好みではありません。
なんか貶してばかりですが、物語は哀しく美しいし、少し物足りないところもありますがプロットもよく考えられています。
監督・脚本のアンドリュー・ニコル作品は初めてなのですが、この後「トゥルーマン・ショー」の製作と脚本を担当し、
最新作では「シモーヌ」が公開予定です。個人のアイデンティティーや自由に強い関心を持っているようです。なんというか、
もう少し泥臭さが出てくると味わい深くなる気がするのですがね〜。それから、ダニー・デヴィートが製作に名を連ねています。
この俳優もユーモラスなおじさんを演じる一方でこういう映画をプロデュースしたり「勇気あるもの」というヒューマン・ドラマに
主演したり、なかなかの才人のようですね。
アイリーン役のユマ・サーマンはクラシカルな雰囲気を漂わせていて美しすぎです。だからこの女(ひと)は女性を意識させる
格好よりも、この映画で言えば前半の男性的なヘアスタイルの時が一番魅力的です。「バットマン Mr.フリーズの逆襲」で、
ポイズンアイビーになる前のダサイ植物学者の姿が私はたまらなく好きです。ビンセントとの関わり方にもう少し工夫があったらなあ。
ユージーン役のジュード・ロウは素晴らしいですね。車椅子に座っているので、ちょっと見上げるように顔を向けるときの
顎のラインが格好いいなあ。ユージーンが螺旋階段をよじ登るところはサスペンス風でドキドキしてしまいました。
それはヒッチコックの「フレンジー」にも似通った、罪を犯している者が感じる恐怖です。
それと、この映画では「ユージーンが自分の身分で生きているビンセントを妬むようになる」というありがちなシチュエーションが
無くて良かったですよね。ビンセントに自分の身分をあげたことを悔いていなかった、ビンセントに全て委ねたというユージーンの
ラストシーンには涙が出ます。
清掃員でアーネスト・ボーグナインが出ているのが懐かしかったです。自分の車のナンバーがBorg9なんですよね。
映画とは関係なかったですね(笑)
世界各地ではギャオスが大量発生するという異常事態に見舞われていた。前回のガメラとギャオスとの対決で両親を
失った少女、綾奈(前田愛)はガメラを憎んでおり、疎開先の古い祠のなかで封石から解き放たれた怪物イリスが
両親の仇をとることを考えるようになる。一方、鳥類学者の真弓(中山忍)は、ギャオス発生の謎を解くための研究を
続けていたが、ギャオスを倒すためには人の被害など眼中にないガメラをも敵とみなし始めた政府に召集されて
ギャオス・ガメラに対する対策チームに組み込まれる。しかし、イリスは人々を襲って次第に大型化、凶暴化していく。
この映画はたまたま渋谷の映画館で観ていたら映画の冒頭で渋谷の街が阿鼻叫喚の地獄と化してしまったので
ビックリしたものである。この映画を観るのと前後して京都駅にも行ったので、こっちもかなり身近に感じてしまいました。
平成版1作目はLDで観たのだが福岡ドーム近辺の人もさぞ驚いたことだろう。
平成ガメラシリーズ三部作の最終作で、不満はたくさんあるのだけれど和製怪獣映画の頂点を極めた感があります。
日本の怪獣は着ぐるみがほとんどですが、上手に撮ればコンピュータグラフィックでは描けない質感、重量感があると思います。
それから、映画の中では1作目と2作目の怪獣たちの戦闘で日本各地は被害を受け、それがまだ復旧していないという設定があり、
ガメラが台風や竜巻という自然災害と同列の、しかしもっと恐ろしい災害をもたらすもの、という位置づけのようなものが
されていてこれが非常に生々しいリアリティを感じさせてくれます。
第1作目「ガメラ空中大決戦」では特撮シーン、特に空中の場面はにいかにも作り物めいた部分がありましたが、
東京タワーに巣くうギャオスの余りにも美しい怪獣映画史上に残る素晴らしいシーンがありました。本作品では、イリスに
対してスクランブル発進した自衛隊機のキャノピー越しにガメラが登場するシーン、破壊された渋谷をあとにガメラが
飛び立ち、その爆風がさらにダメージを与えるシーンがリアルでたまりません。
と、良いことづくめのようですが、ドラマとしてはガメラをとりまく女性が短い時間にあまりにも多く出てきて整理が足りない
という印象です。山咲千里(この方は相変わらず綺麗で私は好きなのですが)の役どころがちょっと弱いし、一緒にいた
ゲーム作家もなんだかよく分かりません。また、怪獣イリスがなぜあんな封石で押さえられ、奈良の山奥の一族がそれを
守ることになったかということもよく分かりません。こういう腰の弱さが日本映画の弱点である気がしてならない。それが残念。
できればDVDで三作揃えたいのだが、いかんせん価格が・・・
世を我が物として勢力を広げた平氏であったが、京の町に夜な夜な出現するという鬼の存在に苦慮していた。夜毎に
兵士が首を切られて命を落としているのだ。このままでは平氏の安泰は続かない。一方、鬼斬丸という刀を盗み出した
破戒僧、弁慶(隆大介)は、高名な僧である阿砂利の問いに対して「この刀で京に巣くう鬼を切れば光明を得ることができる」
と答える。鬼を倒すために出陣した平氏の討伐隊を瞬く間に切り捨てていく鬼の正体とは、弁慶はその鬼を倒すことが出来るのか。
タイトルとTVの宣伝からして、源義経と武蔵坊弁慶が京の都の魔物退治をする話だと思っていたが、結構ハードな剣劇で骨の
ある様でもあり、観ていてちょっと腰が砕けちゃったかなという感じもある映画でした。時代は平安から武家政治への移行期で、
この時代は鎧兜が結構派手で見栄えが良く魑魅魍魎的なものも色濃く残っている時代で戦国時代とともに映画の題材としては
面白い年代だと思う。映画がいきなり太陽系を目指す二つの彗星(映画中では凶星と言っていたか)から始まったので、これからの
展開に若干の不安を抱いた。このちょっと困った雰囲気だけど全体としては好き、という微妙なスタンスが私の評価です。
霊的なものというのは義経(遮那王)と弁慶が精神感応をしたり、僧侶が加持祈祷を行うと言う程度で、「帝都物語」のような
超能力戦争ということは無いし、もののけは出てこない。映画の冒頭ではやたらと「鬼」ということを強調しているような気が
するのだが、オカルティックな雰囲気はここまでで、ちょっと肩透かしを食らった様にこれはあっさりと否定されてしまう。
遮那王が「9日間の断食行に入る」と言った後の時間の経過が唐突な気がするとか、弁慶が念じながら投げている道しるべの
貝殻は沢山持っているのか拾っては投げを繰り返しているのかがずっと気になったりとか、五条大橋のたもとにいるおじいさんの
台詞が殆ど分からないとか、遮那王の影武者役の子は富田靖子に似ていて最初は女の子だと勘違いしていたりとか、浅野忠信は
殆ど表情を変えないとか、え、まだ元服前なのか?といったことが何故だか気になってしまう.
中国から来た?剣術使いはちょっとマイナスかな。おそらく香港の俳優さんがやっているんでしょうが、こちらの方が
遮那王より派手なアクションで見栄えがして、遮那王の太刀が亜流に見えてしまった。甲冑をつけた隆大介は三十三間堂に
あるような仏像を思わせてかっこいいのだが、映画中で「大入道」という表現をしている程には大きく見えない。激しい性格の
はずだが以外に冷静で人間的なもろさも持ち合わせており、完璧を目指している遮那王とは好対照である。
鎧を着た弁慶の力で押す剣術と、白装束をまとって華麗に舞いながら切りかかる遮那王の剣術の対決は、ある意味で非現実的で
あるとは思うが、だからこそ剣の煌きのアップとか上半身だけのせめぎあいだけでなく、全身を写した上での二人の戦いを
見たかったと思うのは私だけではあるまい。撮影上困難を伴うことも分かるし、ワイヤーワークを駆使したりすると香港映画
そのものになりそうだとも思ってしまうが、やはりその部分をクリアして観客にみせてくれるのが映画の持つ醍醐味だと
思うんだけどなあ。これをやってくれると日本映画における「マトリックス」的な映画になり得たと思うのだが。
平氏の一群との斬りあいのシークエンスがしつこいと感じるくらいに長かったり、カメラブレのシーンは何が映っているか
分からないので本当に必要だったのかとも思いますが、結構骨のある映画だったので気に入りました。鉄吉(永瀬正敏)は
なかなかよかったと思います。この人が弁慶側についたことと、赤ん坊の存在が映画に安定感を与えていると思います。
古代の中国、剣の達人である武侠として高名であったリー・ムーバイ(チョウ・ユンファ)は、伝説の名剣と
謳われたグリーン・デスティニーを恩師であるティエ氏に贈るために女弟子であるシューリン(ミシャール・ヨー)に託す。
シューリンはティエ氏や北京の警察長官の娘であるイェン(チャン・ツィイー)らに温かく迎えられるが、夜になって
黒装束の盗賊にグリーン・デスティニーを奪われてしまう。どうやらかつてムーバイの宿敵であったジェイド・フォックスが
関係しているらしい。後に合流したムーバイはその名を聞き、ジェイド・フォックスに毒殺された師匠の復讐を誓う。
盗賊を追うシューリンを妨害した若者はだれなのか。伝説の剣、グリーン・デスティニーを巡る二組の男女の物語。
ワイヤーワークで人が空を飛んでも、なんのためらいも無くそれを受け入れることが出来る世界。そういうベースがある中国や
台湾、香港の人たちはうらやましい!たとえこのアクションシーンをそのまま日本映画に持ちこむことには無理がある
(技術的にではない)としても、「五条霊戦記」で私が観たかった剣劇のアクションシーンがここでは当然のように映し出される。
なおかつ、「マトリックス」では西洋人が驚くほど巧みにカンフーをやっていたが、この映画をみるとまだまだ西洋人には
できないことも確信した。西洋人がカンフーをやると体の大きさや手足の大きさを持て余すのではないだろうか。「マトリックス」
では俳優が一所懸命にやっていることをこの映画では普通にやっている様に見せている。
冒頭の屋敷での空中追跡を少ないカット割で撮影している凄さ、竹林での空中戦、一人対複数での対決のアクションの素晴らしさ、
そしてその激しい動きの中にちゃんとユーモアを織り込むところはさすが。しかも、シューリン、イェン、ムーバイでそれぞれ
ちゃんとアクションにまでキャラクターがある。アクション監督のユアン・ウーピンの才能だろう。
監督のアン・リーという名前は知らなかったのだが、パンフレットを見て「推手」の監督だと知ってちょっと意外に感じた。
たまたまテレビで見たこの映画は、年老いた中国人男性がアメリカで自分の居場所を捜し求めるという静かな人間ドラマだったからだ。
しかし、グリーンディスティニーも、アクション満載であるにも関わらず、それまで猛烈に動いていた映画が息を潜めるかのごとく
静かになるラスト数分の重さは、実は男女の愛情の哀しさを芯にした人間ドラマだったのである。
ミシェル・ヨーが綺麗に年齢を重ねつつある女性を演じて、気持ちを表に出せないもどかしさをふっと出しそうになる微妙な表情、
と激しいアクションを持ち合わせているのが素晴らしい。またチャン・ツィイーも、最初はお嬢様役で出てきた新人アイドル
女優かと思っていたのですが、アクションもこなすし演技もしっかりしていました。かわいいし、これからも期待したいです。
チョウ・ユンファも、この人が剣をさばくと画面がピシッと締まって存在感がありました。台湾や香港の人たちには、この映画に
描かれているような世界は共通基盤として存在しているのでしょうね。
ストーリーの流れではイェンと盗賊ローの馴れ初めが途中で長く入ること、イェンが何故にムーダンを毛嫌いするようになったのか、
とか、ジェイド・フォックスの存在が少し弱いかな、というあたりがちょっと気にはなりました。
ところでこの映画のタイトルといい、敵役ジェイド・フォックスといい、何故カタカナにせねばならなかったのでしょうか。
ジャッキー・チェンの昔の映画に習ったのだろうか。もう少し中国を思わせる、印象的で意味の深いタイトルにしても
良かったのではないだろうか。ちょっともったいない気がします。
ラフカディオ・ハーン[小泉八雲]が書いた「怪談」から、四つの話が展開する。「黒髪」:妻を捨てて国守となった武士が
京都へ帰り着いて体験する恐怖。「雪女」:吹雪によって山小屋に閉じこめられた木こりと雪女の約束。
「耳無し芳一」:平家一門の怨霊にとりつかれた盲目の琵琶法師、芳一の運命。「茶碗の中」:関内(かんない)という武士が
茶碗から水を飲もうとすると、その中に武士の姿がうつる。
この映画をスクリーンでの上映で観ることができたのは私にとっては全くの幸運でした。この映画を創った会社は美術に
金をかけすぎたのが原因で倒産してしまったという。私は、この映画はモノクロだと思いこんでいたので、武満徹の鋭い音楽に
合わせてカラー画像のタイトルバックが映し出されたときにはちょっと驚いた。
いわゆる恐怖映画とは違うのだが、扱っているものが怪談であるだけにドキリとするところもある。瞬間的な恐怖よりも、
文学作品を正攻法で撮った味わい深い作品である。ただし、「茶碗の中」は確か原作には書かれていない結末までが描かれており、
こうなりそうだな、と思っていたにも関わらず実はドキッとしてしまった。こういう終わり方は後年創られた
「トワイライト・ゾーン」や「クリープショウ」などにも共通しているものがあるようです。
昭和39年の作品なので、セットや視覚効果はオーソドックスなものばかりで今日の目で見れば物足りないのだろうが、
日本的なしっとりとした質感をもった美術はやはりすばらしい。私が好きだったのは「雪女」の冬空の美術で、ホリゾンドに
青く描かれた渦巻きがこちらを見つめる眼差しに見えるところなど、ゾクゾクしてしまった。
現在ではベテランの俳優さんたちの若い頃が観られるのがこういう映画の良いところなのだが、耳無し芳一で、芳一を
迎えにきた平家の亡霊が「大霊界」丹波哲郎だったのは今となってはなんともユーモラスである。